【武と音】#2 伝統音楽の今とこれから
私が嗜んでいる薩摩琵琶をはじめ伝統音楽の今や今後について、話をしてみようと思います。
保守派と改革派という定義は、ここでは昔ながらの伝統を重んじ、忠実に節や奏法を再現し表現する方々を保守派、現代に合った曲調に節や奏法をアレンジし新しいアプローチを試みる方々を改革派と、少し乱暴ではありますが区分けすることにします。
ちなみに私の流派は薩摩琵琶の正派で、薩摩琵琶の流派の中では一番古く、室町時代から続いている流派です。正派の派生が錦心流や鶴田流などに当たりますが、各流派の違いについてはまた別の機会に触れることにします。
伝統音楽の新たなアプローチ
話を戻して、私の会派では現代の聴衆に飽きさせないように、節(歌の旋律)や奏法にメリハリをつけるなどのアレンジを行っています。
古来から伝わる正派を演奏を忠実に再現すると能やお経に似た節になり、演奏時間も長くなることがあります。
私はその奥ゆかしさや荘厳さも好きですが、一曲で20分から30分かかることもあり、演奏会では寝てしまわれている方もお見掛けします。平家物語を全章演奏するとなると、一日では終わらないでしょう。ジョーク交じりではありましたが「睡眠導入音楽として投稿してみてはどうか」とお話を受けたこともあるくらいです。
現代の楽曲の平均的な長さは約5分で、現代の日本人にとってはその長さが受け入れがたいかもしれません。
保守派と改革派の溝
和太鼓奏者の知人の話になりますが、その方の会派は保守派寄りでその立場から他の楽器とのコラボレーションを邪道と見なし禁止されているそうです。(アレンジなどはもちろん禁止です。)
もしコラボが発覚すると破門になる可能性があるため、知人は他の楽器奏者からのコラボのお誘いを断っていると言います。しかし、和太鼓を極めるには他の楽器や音楽にも触れることの必要性も感じているため難しい状況に立たされているようでした。
これは音楽に限らず、武道の世界でも同様で、芸事すなわち道を極める者には、他の分野に触れることが必要です。
前述の和太鼓の保守派寄りの会派のように、新しい試みを積極的に行う改革派を嫌悪する会派や先生も存在することは事実で、逆も然りです。
室町時代から続く節や奏法を忠実に再現し継承していてそれがどんな素晴らしくても、聞いてもらえなければ意味がないと思います。だからと言って、伝統を忠実に継承は時代に沿うか沿わないか関係なく大変重要です。
保守派が伝統的な節や奏法を継承しているからこそ、改革派が存在できるのではないでしょうか。
改革派が現代の人たちに沿ったアレンジやアプローチをすることで、伝統文化芸能の存在を周知させることができるのではないでしょうか。双方はある意味相互依存関係にあると考えられます。
『型破り』という言葉があるように、師匠のそのまた師匠と脈々と受け継いできた古典という型をしっかり押さえておかないと、良いアレンジや新たなアプローチは出来ません。
型(古典)という既存の知識や基本的なスキルを尊重し、組み合わせることによって得られることが多いです。それにはバランスと判断力、センスが重要です。それが無ければ形無しなのです。
伝統文化芸能の継承問題と今後
琵琶を含む伝統文化芸能の継承問題は、年々深刻化しています。
琵琶界では、最も多い年齢層が70歳前後であり、数十年後には琵琶自体が絶滅の危機に瀕しているとも言われています。
地球温暖化の影響などから、琵琶に使用される木材の確保が難しくなる可能性があることや、琵琶職人の不足も問題となっています。特に琵琶職人不足の問題は早急に解決すべき課題でしょう。
さらに、伝統文化芸能などの価値が低く評価されていることも問題です。
琵琶奏者のほとんどは琵琶だけでは生計を立てられず、他の仕事との両立を余儀なくされています。演奏料もそれ相応の金額を得ることが難しい場合もあります。もちろん琵琶だけで生計を立てられている方もいらっしゃります。
演奏させて頂けるだけでもありがたいと、無償もしくは無償に近い金額で演奏している奏者も多いのではないでしょうか。海外ではチャリティーでもない限り、そういうことは少ないです。この点を海外と比較すると異なりますが、文化の違いも影響もあるのでしょう。
演奏技術だけでなく、奏者は自身のマネジメント能力も向上していく必要があると思います。
私自身もそうでしたから言えるのですが、無償で演奏することは他の琵琶奏者の方々に対して足を引っ張る可能性がある行為と言えます。
琵琶本体や琵琶の小道具、修理代も高額です。普段着でも構いませんが、演奏するためには着物を着て髪を結い、身なりにも気を配る事も必要な時があります。
奏者がこれまでに費やしてきた時間と労力は、無償ではありません。お稽古代もありますし時間は有限です。
培ってきた貴重な技術を無料で提供せず、相応の対価を受け取ることで今後の奏者の活動や価値のを高めることにもつながるのではないのでしょうか。
琵琶界を含む伝統文化芸能が今後も生き残っていくためには、保守派と改革派は伝統を尊重し、新しいアイディアの探求が共存する方法を見つけ、継承と発展のために双方が協力して貢献しなければならないと考えています。
国摩 磨比斗
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